現役プロテニス選手の
内山靖崇が主催する大会として注目を集める「UCHIYAMA CUP」(ハード、ITF)。2021年の立ち上げ以来、札幌で年間2試合の実績を重ねてきたが、今年からは東京(6月)と札幌(9月)の「2都市開催」へと新たなステップを踏み出した。現役選手としての活動と並行しながら、大会主催やジュニア育成を牽引する内山に、大会立ち上げの原点から資金・運営のリアル、そして日本テニス界の未来像までをじっくり聞いた。
◇◇◇◇◇
■「UCHIYAMA CUP」立ち上げの原点と北海道への想い
――まずは「UCHIYAMA CUP SAPPORO」(9月6~13日)の開催、お疲れ様でした。
内山 ありがとうございます。今年もたくさんの選手が札幌に来て、素晴らしい試合を魅せてくれたことに感謝しています。例年以上に多くの方々に会場へ足を運んでいただいたことで、大会の認知度向上も実感できました。
――改めて大会主催を決意した時期と、そのきっかけについて教えてください。
内山 立ち上げを決意したのは2019年末、自分自身が世界ランキングトップ100を切ったタイミングでした。私自身、小学校低学年のころに地元・札幌で見たエキシビションマッチがきっかけでプロテニス選手に憧れを抱いた経験があります。それまでは自分の目標のためにテニスをしてきましたが、念願のトップ100入りを果たした際、「これからは日本テニス界全体に還元していかなければならない」ととらえ方が変わりました。
当時は北海道にプロのテニス大会が男女問わず一つもなく、自分と同じような体験ができる環境がありませんでした。単発のエキシビションマッチを開催する方法もありましたが、大会形式であれば体格や利き手、プレースタイルの異なるさまざまなプロ選手が一堂に会します。子どもたちがそれぞれ目標とすべき理想の選手を北海道で見つけられる環境を作りたいと考え、2019年ごろから具体的に動き出しました。
――北海道のテニス環境やジュニアを取り巻く現状はいかがですか。
内山 積雪地域のため、基本的にすべてインドアコートでの練習となります。インドアはコート面数が限られるため、僕の幼少期は一面で16人が入りレッスン時間が1時間10分程度にとどまるなど、絶対的な練習量の確保が非常に難しいのが現状です。また夏場であっても大会数が少なく、開催される大会の多くが全国につながる予選会ばかりで、子どもたちが気軽に挑戦できる機会が限られています。
そのため、幼少期に全国トップレベルへ達した選手であっても、中学・高校で本州へ拠点を移さない限り北海道で育ちきることは困難です。過去にも
鈴木貴男さん、
小畑沙織さん、
澤柳璃子さんなど多くの方が中学や高校で本州へ拠点を移しています。また、北海道では野球やサッカー、バスケットボールの人気が高く、親御さんがプレーしているなどのきっかけがない限り、テニスが習い事の選択肢に入りにくいという課題もあります。
――参加費無料のジュニア大会(UCHIYAMA CUP ジュニア)も開催されています。
内山 はい、小学生・中学生の部(男女単複4部門)で開催しています。チャレンジ精神を持って参加してほしいので、まずは「試合に参加するハードル」を極限まで下げ、複数試合を行う中で1勝する喜びや試合の楽しさを知ってもらいたいと考えています。そのため参加費を無料にし、初日リーグ戦・2日目順位別トーナメントという形式を採用しています。

――クリニックやジュニア指導で重視していることは何でしょうか。
内山 ネットやSNSの普及により情報があふれ、派手なハイライト動画に目を奪われがちですが、ジュニア時代は土台づくりが最も大切です。クリニックではフットワークや準備といった、「技術の幹」となる基本動作を正しく伝えることを意識しています。
また、試合は「日ごろの練習のテスト・答え合わせ」であり、「将来どう勝つか」という挑戦心を持つことが大切です。そしてテニスは相手がいて初めて成り立つスポーツですから、相手を思いやる気持ちやマナーを強く重視するよう指導しています。
――現代のジュニアのレベルや、日本の育成体制についてどう感じていますか。
内山 技術やショットの完成度は僕たちの時代よりも圧倒的に高くなっています。一方で、泥臭さや忍耐力といった面は時代的に指導が難しくなっている部分もあるかもしれません。
錦織圭選手らがトップ100で活躍して以降、海外を拠点に世界へ挑む層は厚くなりました。ただ、ヨーロッパ(スペインのクレーでのスピンや、イタリアのインドア環境)のように「国としての明確な育成の軸」が日本にはまだ不在だと感じます。現状は個々のコーチや選手の努力に頼っている部分が大きいため、かつてのボブ・ブレッド氏(※)のような確固たる指導指針や、幼少期から一貫して育てるアカデミー・ナショナル体制の確立が今後の課題だと思います。
※オーストラリアのテニスコーチであり、日本テニス連盟でコーチも歴任。日本の発展に大きく寄与したほか、
松岡修造の恩師としても知られる。2021年1月5日、がんのため死去。享年67歳。

■大会運営の現実と「世界基準」へのこだわり
――改めて大会全体についておうかがいします。もっとも苦労した点は。
内山 間違いなく資金面です。今年ご協賛いただいた9社のうち、地元・北海道の企業は2社にとどまり、多くは個人活動を支えてくださっている企業様です。観客動員数は過去最高を記録したものの、協賛金がそれに比例して大幅に増えているわけではありません。現在は現役選手として自分が稼いだ資金を補填することで成り立っていますが、引退後も同じ形で維持できる保証はありません。現役でいるうちにビジネス・大会運営として絶対に軌道に乗せたいと思っています。
――ご自身の名前を大会名に冠した理由も……。
内山 認知度を早急に上げ、メディア等で取り上げやすくするため「内山」の名を入れました。本来の性格としては表に出るのが苦手で、引退後は裏方に徹したいタイプなのですが(笑)、北海道での大会として「誰が開催しているか」を分かりやすく周知するための自然な選択でした。
――現役選手としての活動と大会主催の両立は難しくありませんか。
内山 両立の苦労は感じていないですね。遠征中であってもディレクターの
増田健太郎プロと日々のオーダー・オブ・プレー(試合日程)等を相談しながら決定しています。自分の中に「常識を疑う」という考え方があり、現役選手活動、大会主催、ジュニア育成を個別に分ける必要はないと考えています。
――現役選手が主催するからこその「コート上のこだわり」を教えてください。
内山 本戦ではグランドスラムやATPツアーと同等基準である「6球使用・7/9ゲームでのボールチェンジ」を採用しています。下部大会(ITF)ではボール交換が遅く、摩耗したボールでプレイしがちですが、それではショットの質が下がり、勝負どころ(ニューボール時の戦術など)の感覚が身につきません。勝ち残っている選手には毎日練習用に新しいボールを提供する体制もとっています。
また試合日程に関しても、重大な理由がない限り「火曜日から1回戦を戦える準備」を求めます。上のステージ(ATPチャレンジャー等)へ進んだ際に、月曜・火曜から即座に試合へ適応できるタフさを身につけてもらうためです。表彰式などで選手から「来年もこの大会に戻ってきたい」と言われた際も、「ここに戻るのではなく、もっと上のステージへ行ってほしい」と伝えるようにしています。

■2都市開催の背景と、国内ルールの壁・将来への展望
――今年から東京・札幌の「2都市開催」へ移行した背景と、見えてきた課題はありますか。
内山 スポンサー企業の協力を得るうえでは、地方よりも東京開催の方が支援を得やすいという現実的な側面があります。
一方で、東京で国際大会を開催できる会場は有明など一部施設に限られ、コート確保自体が容易ではありません。さらに国内規則において「賞金総額100万円以上の国内大会と同地域・同週で国際大会を開催できない」といったルールも存在し、スケジュールの調整が難しく大会数を増やせない原因となっています。昨今の円安環境等も含め、国内で国際大会に挑戦できる土台を増やすことが選手育成につながるため、業界全体のルール見直しや構造改革も必要だと感じています。
――「UCHIYAMA CUP」の将来的な展望を教えてください。
内山 最終的な目標は、日本においてテニスを「日常の文化」に近づけることです。野球やサッカーのように、どこでいつ試合が行われているかが身近に伝わる環境を作らなければなりません。日本には幸いにして頂点となるジャパンオープン(ATP500)が存在します。そのピラミッドの下部構造としてITF大会を地方に可能な限り増やし、大都市でチャレンジャー大会を開催するというバランスが理想的です。地方のほうがコート確保や自治体の街起こし・地域活性化と連携しやすいため、自治体とも協力を深めながらテニス人口の拡大と育成環境の整備を推進していきたいです。
――長時間のお話、ありがとうございました。

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