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テニス選手にとってラケットは重要な道具。そしてそのラケットに張られているストリングスは、実は各選手のプレーを左右する大切な、そして繊細な要素であり、それを張るストリンガーもプロとして勝敗を左右する大きな存在であるが、表舞台へ出ることは一切ない。
ウィンブルドンが開催されている2週間で、約3000本ものラケットにストリングスを張るチーフ・ストリンガーであるロジャー・ダルトン氏は、歴史に残る決勝戦となった昨年のR・フェデラー(スイス)とR・ナダル(スペイン)の一戦でも、優勝したナダルからガットを張ることを依頼されていた。
「去年の決勝戦では、ナダルのストリングスを張ったよ。朝、彼の6本のラケットにストリングスを張って、練習後に彼はそのなかの何本かを張り直すためにまた持ってきた。そして歴史に残る最長の決勝戦の間にも、3本のストリングスを張っていたんだ。」と、今年も練習コートの横で忙しくガットを張っているダルトン氏は、去年の決勝を思い出していた。
「おそらく彼(ナダル)よりストレスを感じていたかもしれない。プレッシャーはずいぶんかかるよ。全ての出来事はコートで起きているけど、自分だけは部屋にこもってストリングスを張り続けているんだ。ナダルは試合中によくスタッフにラケットを持ってこさせるんだ。それはかなりのストレスになるね。」と、去年の試合の裏側を教えてくれた。
ダルトンと彼のストリンガー・チームは、要求されれば15分で1本のラケットを張り上げる。今年のウィンブルドンの第1週目では12台のストリング・マシーンが朝7時から、試合が終わるまで動き続けていた。
「要求されなければ、急いでガットは張らない。質の高いガットを張るにはそれなりの時間が必要だからね。グランドスラム期間中には500人のストリングスを張るんだ。そのサイクルに慣れていなければ、かなりの重労働だろう。」と、この日もN・ジョコビッチ(セルビア)のラケットを張るダルトンは、今年でウィンブルドンでは12年もストリングスを張り続けている。
正確なテンションでストリングスを張ることは、非常に大切なこと。選手が契約してるラケットメーカーのロゴを、正しい場所に入れることも必要になる。ウィリアムズ姉妹とも契約している彼のチームは、ストリングスを張る時に、ラケットのグリップを汚さないようにも気を配っている。
「ヴィーナスとセリーナとも契約しているから、彼女達がコートに立ったら、いつでも機械を使えるように準備しなければならない。すぐにグリップにビニールを巻くんだ。ストリンガーの汚い手で汚さないようにね。」
そしてこんな思い出も語った。1992年に当時世界ランク1位のM・セレス(アメリカ)が、彼女のラケットに92ポンドでストリングスを張って欲しいと言われた。通常平均は60ポンド以下で張るのが普通なため、その作業は恐怖さえ覚えたと言う。
現在の彼が担当している選手で、一番硬くストリングスを張っているのはV・スペーディア(アメリカ)だが、フェデラーは何本ものラケットをコートに持ち込み、それらは硬いものから軟らかいものまでミックスされている。
「フェデラーは比較的、低いテンションでストリングスを張っている。けれど、彼は何本ものラケットに幅を持たせて張っていて、その時の調子で使い分けているんだ。」
大方の選手は合成繊維でできたストリングスを張っているが、スピンやパワーを考えて他の素材のストリングスや、それらをミックスさせて張る選手もいると言う。ナチュラルガットも未だに要求される。なぜなら張ったテンションを長く維持できるからだ。
試合中にストリングスが切れるシーンを見ることがある。ラケットもストリングスが張られていなければ、使いものにならない。選手がテニスと言う仕事に実は欠かせないストリングスを張る職人も、選手と共に戦っている。
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