2007年のUSオープンは、雨にたたられることもなく、過去最高の観客動員数となる72万1087人の入場を記録するなど、大盛況のうちに幕を閉じた。内容的にも、王者ロジャー・フェデラーの4連覇、女王ジュスティーヌ・エナンの2度目の優勝、新鋭ノヴァーク・ジョコビッチの決勝進出など、見所も満載だった。
大会のハイライトの中で最も輝いているのはフェデラーの優勝だろう。第1シードとして予想通りの結果だったとも言えるが、今回の勝利で『史上最高の選手』という肩書きに新たな勲章が加わったのは間違いない。
優勝までの道のりが険しくなかったわけではない。準決勝のニコライ・ダビデンコ戦、決勝のジョコビッチ戦では、ともにリードされる場面もあった。「準々決勝からの3試合では1セットも失ってはいないけど、凄く厳しい試合を勝ち抜いたよ。その他の選手はチャンスを逃した。最後に振り返ってみると、ロディック、ダビデンコ、ジョコビッチをストレートで退けたのは、凄いことだよね。」とフェデラーは語っている。
オープン化以降初めてのUSオープン4連覇により、フェデラーの四大大会優勝回数は12回となり、ピート・サンプラスの持つ14回という記録にあと2つと迫った。この調子でいけば、来年のウィンブルドン、もしくはUSオープンで新記録を達成するのも夢ではない。
女子第1シードだったエナンは、記録ずくめというわけではないが、『アルデンヌ』という姓の一部が取れてから初めての優勝となった。年初の全豪オープンを離婚により欠場したが、その後は疎遠になっていた家族との縁を取り戻し、今季はここまで42勝4敗、今回の優勝を含めツアー優勝7回を飾って、世界ランク1位に君臨している。
昨年決勝でエナンに勝利して初優勝を飾ったマリア・シャラポワは、第2シードとして望んだ今大会では3回戦で18歳のアニエスカ・ラドワンスカに敗れた。しかし、この残念な結果にシャラポワは、「彼女(ラドワンスカ)に敬意を表さなくてはいけないわ。だって、勝利したのは彼女だから。彼女達のような若い選手が大舞台でトップ選手を相手にすれば、少しは緊張するものだけれど、彼女はそこで頑張ったのよ。」と、まるで昔の自分を振り返るかのようなコメントをしている。
シャラポワと同じく第2シードだったラファエル・ナダルは、大会前に痛めた膝の影響もあり、4回戦で同胞のダビッド・フェレールに屈した。1回戦で苦労した以外は、相手の棄権などもあり何とか勝ちあがったナダルだったが、フェレール戦では3時間半を超える接戦の末に敗退した。全仏オープン優勝、ウィンブルドン準優勝のナダルだが、来年以降のハードコートでの活躍を期待したい。
ナダルと同じくマヨルカ島出身のベテラン、カルロス・モーヤは31歳ながら9年ぶりのベスト8進出を果たした。
フェデラー、ナダルを追う世界3位の位置につけているジョコビッチは、見事第3シードとして初のグランドスラム決勝進出を果たしたが、今大会ではその成績以外でも人々の記憶にインパクトを与えた。シャラポワやナダルなど選手のモノマネが大うけとなり、試合後に観客の前にパフォーマンスを行うなど、サービス精神旺盛なところもあって、人気者となった。また決勝ではファミリーボックスに俳優のロバート・デ=ニーロやシャラポワが応援に来たことも話題となった。
「アメリカのテニスファン、特にこのUSオープンの観客を味方につけるのは簡単なことじゃない。でも、彼らは僕のコート内外でのキャラクターを気に入ってくれたみたいだね。プレーよりもモノマネに賞賛を受けたんだけど、モノマネ芸人として認識されてしまうんじゃないかと、ちょっと心配だよ。」とジョークを飛ばしているが、ジョコビッチのテニスも準優勝という結果が示すように、大きく開花したといえるだろう。
ジョコビッチと同じくセルビア勢の、イェレナ・ヤンコビッチ、アナ・イバノビッチの活躍も見過ごせない。
昨年第19シードとしてベスト4まで勝ち進んだヤンコビッチは、今年は第3シードながら準々決勝でヴィーナス・ウィリアムズに敗れ、2年連続の4強入りを逃した。しかし、セルビアにおけるテニス人気の上昇に喜びを隠さない。「(セルビアの)皆は、昼だろうが夜だろうが、私達の試合をチェックしてくれているの。朝3時なのに起きて、試合を観てくれているなんて、凄いことよね。以前はサッカーやバスケットボールでこういうことはあったけど、今はテニスの人気が出てきて、私達をサポートしてくれているの。」
今季大躍進を遂げたイバノビッチは、ヤンコビッチと同じくヴィーナスに敗れ、4回戦敗退に終わった。
地元アメリカ勢では、男女合わせて3人がベスト8に残ったが、ベスト4に進んだのはヴィーナスだけで、セリーナ・ウィリアムズとアンディ・ロディックは準々決勝の壁で優勝したエナンとフェデラーの壁にそれぞれ阻まれた。
しかし、アメリカの次の世代を担う若手の登場という明るい話題もあった。
この夏からツアーに参戦し始めたジョン・アイズナーは、1回戦でシード選手を破って3回戦に進出、フェデラーに敗れたものの、1セットを奪うなど大きな可能性を見せた。
「4ヶ月前はランク外だったんだ。それがフェデラーからセットを取れたなんて、凄いことさ。この試合でトップ選手とも戦えることが分かった。いい経験になった。」と身長2メートル6センチのアイズナーはコメント。
アイズナーのほかにも、第17シードのタティアナ・ゴロバンを破った22歳のアーシャ・ローレ、18歳のドナルド・ヤングなど期待の新人の出現に、アメリカテニスファンも一安心だろう。
また女子10代選手の快進撃も印象に残った。シャラポワを倒したラドワンスカ、ナディア・ペトロワを下したアグネス・サバイ、マルチナ・ヒンギスを破ったヴィクトリア・アザレンカはともに18歳。パティ・シュニーダーを下し4回戦に進んだタミラ・パスゼックに至っては16歳と、女子テニス界に現れた新星の今後も楽しみだ。
しかし、一方でコートを去る選手もいることを忘れてはならない。長年英国のトップ選手として、サーブ&ボレーに長けた人気選手として活躍してきたティム・ヘンマンが大会を前に引退を表明、最後のUSオープンとなった。
また、地元勢のジャスティン・ギメルストブもラケットを置く決意を明らかにしている。
日本勢では、女子シングルスに登場した杉山愛、森上亜希子、中村藍子が早々と敗退したが、ダブルスでの活躍が光った。
3大会連続の四大大会決勝進出、USオープン制覇を目指した杉山/カテリーナ・シュレボトニック組は、惜しくもベスト8に終わったが、森上は3回戦、中村は2回戦とそれぞれ勝利を手にしている。
男子シングルスでは、添田豪の予選決勝進出が最高だったが、怪我から復調した鈴木貴男、期待の17歳・錦織圭が予選に参加した。
車いすテニス部門では、日本勢が大活躍し、国枝慎吾がシングルスで優勝、また斎田悟司と組んだダブルスでも優勝し、単複制覇を達成した。また女子でも八筬美恵が第2シードを相手にフルセットの善戦を演じた。
ジュニアでは、ダブルスで今季ウィンブルドン準優勝ペアの奈良くるみ/土居美咲ペアがベスト4に進出。秋田史帆も2回戦に進出した。
2007年のUSオープンは、「It’s show time!」という合言葉に相応しい素晴らしい大会だったといえるだろう。
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